2017.12.4 第7話
スズメバチ保険ロケ
野外撮影(ロケ)にはよく出かけた。あらかじめロケハンで決めていた場所で撮影するのだが、スタジオ撮影に比べてリスクも高くなる。今のようにスマホで15〜30分後のお天気を予測する術などあるはずもなく、雨風や陽の出方も運次第、モデルは日帰り契約、「今日は、撮れませんでした」では済まないのだ。
ブツ撮でも野外で撮ることもあった。ある時、夏の贈答品(ジュースやメロンゼリー)を狭い渓谷の小さな滝の中で撮影することにした。涼しそうな水しぶきに陽の光がきらめくシーンを撮りたいのだが、ロケハンしてみると、渓谷の上の空が狭い。太陽が通り過ぎるのは15〜20分あるだろうか。その瞬間のみシャッターチャンスなのだ。
広告代理店から旭川気象台に問い合わせてもらう。ロケ予定場所、何日の何時頃のお天気と陽の回り方、陽の差す時間を分単位で予測してもらうのだ。代理店の力は強い。良い写真を撮るためには何でもしたし、ゆるされる時代だった。
モデル撮影の場所もエスカレートしていった。「流行通信」のような個性的な写真が撮りたい。カメラマンと二人で「今までにない」ロケ場所を探して回る。予定している撮影時刻の陽の回り方を見る。使える?使って良い場所なのか?
人づてに聞いた彫刻家の山の中の石の家。この秋のコートの撮影に使いたい。許可をいただいてロケハンに出かけた。十勝岳の麓の石切場の脇、雑木林の一角に「それ」は建っていた。家というよりはオブジェ。楕円が重なったひょうたんのような間取りの壁は、大きな軟石で積まれ、屋根は足場材の小径丸太が組まれた上は茅葺き。そう、モンゴルのゲルを石で作ったような形だ。今季のコートのキーワードの中にも「遊牧民のような」というフレーズが入っていた記憶が、、、。ここで撮りたい。
石小屋の周りを歩いてみると!!!これまた素晴らしい、オブジェが垂れ下がっていた。でかい!スズメバチの巣だ!ブンブン飛び回っている。スタジをに戻ってスタイリストに伝えた。papa:「撮影クルー全員、1日限りの保険をかけてくれないか?」スタイリスト:「はいわかりました。」papa:「額はいくらにする?」スタイリスト:「5,000万でいいですか?」
30年前、旭川でそんな撮影をしていた。
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