2018.10.8 第51話

北欧出張。

デンマーク、スウェーデン、フィンランド。デンマークはコペンの空港発着のみだが一応、北欧3カ国の出張。アメリカ、ロシア出張から5年経っていたが、この北欧で見て感じたことが、今の自分の「Creation=創造」に強く影響している。あまりにも多く感じることがあって、すべて書くには、何話にもなりそうなのでここではほんの糸口、「色で感じた」こと。
 
自社のカタログ製作に、スウェーデンから輸入している、革やオイル、塗料などの「生の情報」を載せたいとの想いとパートナーショップの新聞広告製作のための現地取材が主目的だ。住宅の写真を沢山撮ることと、バルト海クルーズ後にフィンランドのiittala、ARABIAも訪れる予定だ。
 
「お久しぶりです。よろしくお願いします。」コペンハーゲン空港で迎えてくれたのは、三田崎さん。スウェーデンで家具工房を主宰している日本人。自社に研修に来たこともある方だ。このあと10日間のガイドをお願いしていた。
 
コペンからスウェーデンの南端マルメに電車で移動した。マルメ駅から向かいのSAVOY HOTELに歩き出して直ぐに、今までのアメリカやロシアでは全く感じなかった、でも、幼い時からなんとなく思い描いていた、ヨーロッパの、北欧の、奥深く趣のある空気を感じた。「本物」なのだ。石畳の道路も街灯も建物も。本物は〝直感で判る〟ものだということに自分ながらびっくりする。
 
SAVOY HOTELのフロント。石のカウンターの足元にブラス(真鍮)のパイプが付いている。足置きだと思われる直径7〜8cmのパイプが鈍く美しく光っている。1864年に建造されたホテルなのだ。エレベーターのドアは網の引き戸。蛇腹になっている。映画でしか見たことがなかったが建造当時から変わっていないとのこと。140年手入れをして使い続けている。
 
北欧の冬は、日が暮れるのが早い。ホテルに着いたのは16:00位だったと思うが、空は真っ暗で、その分オレンジ色の街灯が美しい。夕食まで時間があったので、ガムラスタン(旧市街地)を少し歩くことにした。アスファルトは見当たらない。10cm角の黒々とした石がびっしり敷き詰められた道。しかも螺旋状に幾重にも重ねた模様を成して先に続いている。路地を囲む建物は、おそらく手で削られた角材のポストアンドビーム建築。壁は古いレンガで規則的な模様に積まれている。建物の中に入ってみると、若手クリエーターの作品展が催されていた。カトラリー、ファブリック、ガラス、家具、グラフィックデザイン、、、。洗練されたあまりのセンスの良さに圧倒されるばかりだ。
 
翌朝、陽が上がるのも9:00過ぎだ。遅めの朝食をいただいて(食事はとても質素)今回の目的の一つ、家の写真を撮りながら車で北上してゆく。小さな村や町の住宅地?をぐるぐる回りながら、気に入ったフォルムの「家」を撮影してゆくのだが、最初の村から離れられない。
 
この国の人たちの「デザイン感覚」は一体どうなっているんだろう。昨夜の若手クリエーターの圧倒的なレベルの高さにも驚かされたが、最初に訪れたこんな小さな村の小さな集落の住宅地。天然石で石垣を積み、二重三重に計算されて植えられた植生。どれ一つとして同じものがない。主人や家族、自分たちで石を積み高さの違う植物を植えたに違いない。落ち着いた色の木の壁。その色に上品に対比させた窓枠の色。わざと色を混ぜたであろう屋根の瓦。一体この国の人たちのデザイン感覚はどうなっているんだ。日本では一握りのクリエーターにしかないだろう感覚が庶民みんなに備わっているというのだろうか。
 
北欧の建物の「色」を見て、瞬時に感じる違いがある。「深み」なのだ。ピンク、水色、黄色、紫、ベンガラ色、、、。ペンキとは明らかに違う趣「深み」。合成顔料を有機溶剤で溶いたペンキとは全く違うその塗料は、天然顔料と亜麻仁油と小麦粉から出来ている。ペンキのようにすぐは乾かないが、小麦粉が亜麻仁油と顔料をつなぎ、木目にしっかりと浸透する。光を反射しないしっとりとしたその色合いは、ゆったりと目に馴染むのだ。これが本物の「色」なのだと。美しい。
 
旅の始まりからの「衝撃」。さらに日を増すごとに重ねられる驚きと納得。そして、次々と剥がれてゆく目の鱗。
また何処かで書こうと思う。
 
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