2018.7.9 第38話
海は川、川は森、森は木だ。
18年前になるが、ロシアに出張に行ったことがある。前職場でお付き合いがあった在京の会社のお誘いだった。都内を中心に「安全な食」を宅配で提供する会社だが、家庭の中の道具にも「安全と安心」を求めて、無垢材でオイルフィニッシュの家具を顧客に提案したいとのことでお付き合いが始まった。
ソビエトが崩壊して9年が経っていた。自社でもロシアカラマツを使っていたのだが、この木はツンドラに近い北部で育つゆえに、年輪が細かく粘りもあり経年変化のとても素敵な木材だった。共産主義が崩壊して、主食も医療も教育も、全てを自分たちで賄っていかなくてはならなくなった、特に農村林間部の人たちは「自分たちの山の伐採権」を外国の業者に売って外貨を稼ごうとしていたのだ。
森がなくなってしまってからでは遅い。papaは、森に立つ樹齢300年とも500年とも言われるロシアカラマツの実態を確認したかった。目的地は、ロシア沿海州極東、ハバロフスクから東南東に500km。ウゲデ族が住むアグズ村だ。旧ソビエト空軍の軍用ヘリで飛んだ。総勢17名。
村には、森から流れる豊潤な川が流れていた。サマルガ川だ。このサマルガ川に遡上する豊富なサクラマスをはじめとする水産資源をフェアトレードすることで、彼らの生活を守って行けないだろうか。というのが今回の主目的だ。まずは、魚影の濃さを確認するために、釣りをしながら川を下って日本海に出る2泊3日のワイルドなツアーだ。船外機が付いてはいるものの公園のボートぐらいのサイズだ。これで日本海まで75km下って戻ってくるのだ。
雨が数日前から降り続いていた。日本からの参加者たちは口々に「増水するぞ。川が濁って釣りにならなのじゃないか?」と心配していた。パパは、「恐らくそうはならないと思う。大丈夫。」と話した。ハバロフスクからここアグズ村まで500km、ヘリからず〜っと下の森を見ていた。多少、自然の?山火事で森林が抜けてるところはあったが、深深と豊かな森が広がっていた。
村に着いてから森に入ってみたが、こんなに豊富な樹種の森は初めてだった。大木の下には幼木が、シダ類が広がり、地面もコケ類でびっしり詰まっている。土が見えない。歩くと柔らかなベッドのようにふわふわだ。この森の保水力は想像を超えている。たかが数日の雨程度では、川の増水も濁りもないだろう。
その後も雨は降り続いたが、やはり、川に変化は起きなかった。白濁りすらない。広大な森のスポンジから少しずつ滲み出た水がサマルガ川になっているのだ。日本海に出る河口もその先の海も全く濁りがなかった。釣果も想像をはるかに超えた。
海は川だ。川は森だ。森は木だ。
ここ数日の日本の「雨による災害」。異常気象、川の治水や避難体制などなども大切な議論として取り上げられているが、、、。
幾たびか、九州に出張に行った際の列車から見えた山の木は、杉ばかり。混合樹林がないのだ。熊も住めなくなっている。山陰から山陽に自動車道を通った時の景色も同じだ。亀岡から京都嵐山の保津川下りの景色もまた然りだ。そろそろ根本的な「森の議論」をするべきだと思う。
◀︎第37話へ 第39話へ▶︎